
解体工事の現場で働く作業員の命を守る「水分補給」。
実は2025年6月から、労働安全衛生規則の改正により、事業者による水分・塩分の提供が罰則付きで義務化されました。
「夏場の解体現場、どれくらい水分補給が必要?」
「会社は何を準備すればいいの?」
「義務を怠るとどうなる?」
この記事では、解体工事における水分補給の法的義務から、実際の現場での取り組みまで、知っておくべき情報を徹底解説します。
なぜ解体工事で水分補給が重要なのか
なぜ解体工事で水分補給が必要なのか?改めて考えてみます。
解体現場は熱中症リスクが極めて高い
解体工事の現場は、他の建設業と比較しても特に過酷な環境です。
解体現場特有のリスク要因
- 直射日光の影響:建物を壊すため日陰が少ない
- 粉じんと熱気:コンクリートや木材の粉塵が舞い、体感温度が上昇
- 重機からの輻射熱:ショベルカーなどの重機が発する熱
- 重労働の連続:手壊し作業など体力を消耗する作業が多い
これらの要因が重なり、体感温度は実際の気温より5〜15度高くなることもあります。
熱中症による労働災害の実態
厚生労働省のデータによると、建設業は熱中症による死亡災害が最も多い業種です。
建設業の熱中症死亡災害(2024年データ)
- 全産業の熱中症死亡者:年間約30名
- うち建設業:約40%(12〜15名)
- 特に7月〜8月に集中
参考:厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」
2025年6月施行|水分補給が法律で義務化
水分補給が法律で義務化されました。
労働安全衛生規則第617条「熱中症対策の義務化」
2025年6月1日から、事業者に対して熱中症対策が罰則付きで義務化されました。
義務化の対象となる作業条件
- WBGT(暑さ指数)28度以上、または気温31度以上
- 連続1時間以上、または1日4時間以上の作業
解体工事は屋外作業が中心のため、ほぼ全ての現場が対象となります。
事業者が守るべき法的義務
必須対応事項
- 水分・塩分の提供:いつでも摂取できる環境の整備
- 涼しい休憩場所の確保:冷房設備またはスポットクーラー設置
- 作業前の健康状態確認:睡眠不足・体調不良のチェック
- 緊急時の対応体制:救急搬送の手順を文書化
- 熱中症予防の労働衛生教育:年1回以上の実施
違反した場合の罰則
罰則内容
- 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
- 労働基準監督署による是正勧告
- 重大な事故が発生した場合は企業名公表の可能性
「うちは小さい会社だから大丈夫」という考えは通用しません。規模に関わらず全ての事業者が対象です。
解体現場での水分補給|実際の準備と工夫
必要な飲料の種類と量
解体工事の現場では、作業員1人あたり1日2〜3リットルの水分摂取が推奨されています。
推奨される飲料
- 水・麦茶:基本の水分補給
- スポーツドリンク:塩分・ミネラル補給
- 経口補水液:熱中症予防に効果的
- 塩分タブレット:塩分補給の補助
避けるべき飲料
- カフェイン飲料(コーヒー、エナジードリンク):利尿作用で逆効果
- アルコール類:当然NG
- 糖分過多の清涼飲料水:血糖値の急上昇を招く
サポートプランの実践例|缶ジュースをクーラーボックスで
実際の解体現場では、どのような準備がされているのでしょうか。
サポートプランでの取り組み
- クーラーボックス常設:氷を入れて常時冷たい状態をキープ
- 缶ジュース:作業員が好みで選べるように複数種類
- スポーツドリンク:熱中症対策として必ず用意
- 塩分タブレット:休憩時に配布
「昔は水筒を回し飲みしていましたが、最近は衛生面を考慮して個別の缶飲料に切り替えました」という変化も、時代に合わせた工夫です。
YouTubeでも紹介しています
水分補給のタイミングと量
効果的な水分補給のルール
- 作業開始前:コップ1杯(200ml)
- 作業中:15〜30分ごとにコップ1杯
- 休憩時:のどが渇いていなくても必ず摂取
- 作業終了後:失った水分を補給
「のどが渇いたと感じた時点で、すでに脱水が始まっている」と言われています。渇きを感じる前の定期的な水分補給が鉄則です。
解体工事現場の熱中症対策|水分補給以外の必須対策
涼しい休憩場所の確保
休憩場所の条件
- 冷房設備またはスポットクーラー設置
- 直射日光が当たらない場所
- 風通しの良い環境
- 座って休める椅子やベンチ
狭小現場では仮設の休憩テントを設置するなど、工夫が必要です。
作業時間の調整
夏場の作業スケジュール例
- 早朝開始:7:00〜11:00(気温が低い時間帯)
- 長めの昼休憩:11:00〜14:00(最も暑い時間は避ける)
- 午後再開:14:00〜17:00
「30分に1回、必ず水分補給の休憩を設ける」という解体業者も増えています。
空調服・冷却グッズの活用
現場で使われる冷却グッズ
- 空調服(ファン付き作業着):背中のファンで風を送る
- 冷却ベスト:保冷剤を入れるポケット付き
- クールタオル:首に巻いて体温を下げる
- ヘルメット用送風ファン:ヘルメット内の熱を逃がす
健康状態の確認
朝礼時のチェック項目
- 睡眠は十分取れたか
- 朝食は食べたか
- 体調不良はないか
- 前日の飲酒状況(二日酔いのリスク)
「調子が悪い」と感じたら、無理せず申告できる雰囲気づくりが重要です。
よくある質問
Q1. 水筒の回し飲みはダメ?
A. 衛生面の観点から推奨されません。特にコロナ禍以降、多くの現場で個別の飲料に切り替えられています。缶やペットボトルなど、1人1本ずつ用意するのがベストです。
Q2. 飲料代は会社負担?自己負担?
A. 法律上、事業者が水分・塩分を提供する義務があるため、基本的には会社負担です。ただし、会社によって対応は異なります。
Q3. 塩分補給はどれくらい必要?
A. 汗で失われる塩分は1時間あたり約1〜2g。塩分タブレットやスポーツドリンクで補給しましょう。ただし、高血圧など持病がある方は医師に相談を。
Q4. 熱中症になったらどうすればいい?
A. すぐに作業を中止し、以下の対応をおこないましょう。
- 涼しい場所へ移動
- 衣服をゆるめる
- 体を冷やす(首、脇、太ももの付け根)
- 水分・塩分補給(意識がある場合)
- 意識がない・改善しない場合はすぐに救急車を呼ぶ(119番)
Q5. 作業員が水分補給を拒否したら?
A. 熱中症は命に関わります。会社としては、定期的な水分補給を業務命令として徹底すべきです。「俺は平気」という過信が最も危険です。
解体工事の水分補給は命を守る法的義務
解体工事における水分補給は、単なる自主的な取り組みではなく、法律で定められた義務です。
この記事の重要ポイント
- 2025年6月から罰則付きで義務化:違反すれば懲役・罰金
- 事業者は水分・塩分を提供する義務:クーラーボックスで冷やした飲料を常備
- 15〜30分ごとの定期的な水分補給:のどが渇く前に飲む
- 昔の水筒回し飲みは衛生上NG:個別の缶・ペットボトルへ
- 水分補給だけでなく総合的な熱中症対策が必要:休憩場所、作業時間、冷却グッズ
夏場の解体工事は、作業員の安全が何よりも優先されます。「ちょっとくらい大丈夫」という油断が、取り返しのつかない事故につながります。
事業者も作業員も、法律と命を守るために、適切な水分補給と熱中症対策を徹底しましょう。
