
解体工事は、建物を壊すだけではなく、工事による事故防止、近隣への細やかな配慮、法令に基づいた廃材処理、そして何より、依頼主の大切な思い出と財産を預かる責任が伴います。安易な判断で工事業者を選んでしまうと、予期せぬトラブルに見舞われるケースがあるのも事実。経験豊富で頼れる業者、もしものトラブルにも真摯に対応する誠実な業者を選ぶことが大切です。
建設業で長年の経験があり、数々の解体工事を手がけてきた塩田代表のお話をもとに、解体工事で起こりやすいトラブルや信頼できる業者を見極めるポイント、これまでに経験したトラブル事例をご紹介します。
近隣クレームの三大要因、ホコリ・振動・騒音。解体工事中に起こるトラブルとは?

解体工事においては、どれだけ丁寧に仕事をしていても、やはりホコリや振動、騒音の3つは避けることはできません。そのため、解体工事中は、細心の注意を払って工事を進める必要があります。
近隣住民からのクレームは、工事中だけでなく、工事後のご近所付き合いや人間関係そのものにも影響します。工事中に迷惑をかけてしまうと、解体後の新しい生活にも大きな支障をきたす恐れがあります。
「日本の住宅の多くは木造で、屋根瓦の下には『からつち(葺き土)』と呼ばれる土が敷かれています。強引な解体工事を行うとその土が舞い上がり、近隣に迷惑をかけてしまいます。また、壁に関しても同じです。ダイナミックにバターン!と倒すイメージもあるかもしれませんが、重量があるので、そのまま倒すと大量のホコリが舞ったり、振動や大きな音の原因に。重機のエンジン音も騒音や振動の原因となり、『窓を開けられない』『洗濯物を干せない』『落ち着いて過ごせない』といったクレームに。工事は数日〜数週間かかるので、こうした小さな要因が積み重なってストレスとなり、工事業者へのクレームや、その土地の人(依頼主や土地の購入者)への不信感につながります」
近隣住民からのクレームを避ける!誠実な業者の見極め方

工事で生じる振動や騒音、ホコリなどは避けられませんが、最大限の配慮を行うことで、工事中でも近隣の方々が気持ちよく暮らすことができ、その後の近所付き合いもスムーズになります。
「近隣住民の方にとっては、解体工事中も日常の生活があります。また、工事終了後は、土地の所有者もしくは新たな土地の所有者がそこで新しい生活を始めます。解体工事によって関係が悪くなったまま、何十年もその土地で生活していくのは非常に辛いものです。私たちは、工事中の細やかな配慮はもちろん、近隣住民の方々と積極的なコミュニケーションをとり、トラブルを未然に防ぐように努めています」
【近隣への影響を最小限にする工事の工夫】
・土ぼこり対策: 瓦を剥いだ後、土を手ですくって建物の内部に落とし込む(半日程度かかる手間のかかる作業)
・壁の解体: 一度に解体せず、分割して少しずつ解体・撤去を繰り返す
・養生の強化: 養生シートを通常より1メートル高く設置し、隙間をなくして密閉
・水撒き: こまめに水を撒いてホコリの飛散を抑える
・挨拶や細かな気配り:工事前の挨拶、積極的な声かけなどのコミュニケーション

「屋根なら瓦を剥いだ後に土を手ですくって建物の内部に落とし込む、壁なら一度に解体せず分割して解体していくなど、ホコリが舞うのを抑えて作業をすすめます。ほかにも、養生シートも通常より1メートル以上高くし、隙間があかないようきっちりと設置する、ホコリが立たないようこまめに水を撒く、なども基本です」
ただし、こうした丁寧な作業には、時間と手間、そしてコストがかかります。極端に安価な見積もりを出す業者などは、こうした手間を省いている可能性も高く、クレームを引き起こす原因にもなりやすいため、見積もり金額の内訳などまでしっかりと確認することが大切です。
「当たり前のことではあるのですが、毎朝現場に着いたら、まずお隣さんに『おはようございます!』と笑顔で挨拶することを徹底しています。たったそれだけのことでも、やるとやらないではご近所さんからの印象は大きく変わります。普段から積極的にコミュニケーションを取っていると、近隣の方も「次に大きい音が出るのはいつ?」「ちょっとホコリが気になるんだけど」など気軽に相談してくださったりするので、大きなクレームに発展するのを防ぐことができます」
“安すぎる見積もり”に潜む落とし穴!手抜き工事業者を見極めるポイントは?お金のトラブル

次に気をつけたいのが、手抜き工事を行う業者とのトラブルです。決して安くない費用を支払い、思い入れのある建物を解体することは、ご本人やご家族みんなにとって、とても大きなことです。
しかし、安さを売りに契約をし、強引な解体工事や正当な手順を省いた手抜き工事を行う業者もいます。
「解体工事には、人件費、ゴミの処分費用、重機や足場の費用、経費、会社の利益などが含まれており、そのうち重機や足場の費用、経費など絶対に削ることのない費用を除くと、人件費やごみの処分費用を削るしかありません。そうなると、本来の手順を踏まずにいい加減に工事を行ったり、工事現場にゴミを埋めたり不法投棄したりと、どこかで手を抜かざるを得なくなる。これが手抜き工事の正体なんです」
解体工事の後に出たゴミは、本来きちんと分別してゴミ処理センター(廃棄物処分場)に搬入するものですが、分別されなかったり、酷い業者になると工事現場に埋めてしまったりすることも。1週間〜10日で建物を壊す解体工事は、お金になりやすいと安易な考えで参入する業者も多く、経験や専門知識がないため結果的に杜撰(ずさん)な工事になってしまいます。

「最近、関東で問題になっている、外国人労働者だけで構成された解体チームによる粗雑な工事もその一つ。人手不足もあって、安い労働力として外国人を雇用する業者が増えていますが、養生作業もまともに行わず、近隣住民とのコミュニケーションも取れないため、危険な状態で工事が行われているのが現状です」
最近では、解体工事の業者選びに、『一括見積もりサイト』を利用する人も増えました。ネット上で簡単な情報を入力するだけで見積額がわかる便利なサービスですが、現場を確認せずに出された見積もりには、落とし穴が潜んでいることも。極端に安い見積もりを提示する業者に依頼してトラブルになるケースも多く見られます。
「一括見積もりサイトの最大の問題点は、現場を見ずに見積もりを出すことです。サイト上で出す見積もりは、あくまで概算です。家は一軒一軒構造が異なるため作業工程も異なりますし、使用している建材によってゴミの処分費用も大きく差が出ます。また、建物の内部がどのような状態か、周辺環境がどうなっているかなどの情報がないと、正確な見積もりは出せません」

手抜き工事を避けるには、価格だけで業者を選ばないことが重要です。きちんとした会社組織で運営している業者は、保険料、ホームページの維持管理費、事務所の賃料、従業員の携帯電話代、コピー機代、その他の間接経費など、多くのコストがかかっています。個人事業主の集まりのような業者は、こうしたコストがかからない分、安く見積もれますが、統制が取れず、何かあった時の責任の所在が不明確です。
【安すぎる工事費用の落とし穴!手抜き工事業者の特徴】
・工事中の養生作業をきちんと行わない
・作業が粗雑になる
・近隣とのコミュニケーション不足
・ゴミの分別が不十分(現場に埋めるケースも)
・ホームページなどがなく、情報が少ない
・事務所を構えておらず、きちんと組織化されていない
とはいえ、費用を少しでも抑えたいというのは当然のこと。見積り額が安いからといって悪い業者とは限りませんし、値引きをすることがけして悪いというわけではありません。
誠実な業者かどうかを見極めるには、正当な理由の値引きが行われているかがポイントのひとつ。
「正当な理由もないのに、契約を取るためだけに大幅な値引きをする業者には少し注意してください。資金繰りが厳しい業者はすぐにもお金が欲しいため、とにかく値段を下げて契約を取ろうとします。工事の契約したものの、高額な追加料金を請求されたり、人手が足りずになかなか工事が進まなかったり、最悪の場合は倒産や工事放棄につながる可能性もあります」
プロがアドバイス!工事費用を節約するコツ

契約後や工事中に起きるトラブルを防ぐためにも、適正価格での見積もりを提示する業者を選ぶことがもっとも安心・安全。
さらに、工事費用を少し節約する方法が、建物の中にある家具や衣類、食器、生活用品、家電製品などの残置物を処分しておくことです。
「残置物が残っている場合、工事費用とは別に残置物整理費がかかります。木製家具はそのまま建物と一緒に解体しゴミとして出すことができますが、冷蔵庫や洗濯機などの大型の家電などは運び出す作業やリサイクル費用が必要になりますし、金属やガラスなどの建物と一緒に処分できないため、その分費用も高くなります。家庭ごみとして処分できそうなものは処分しておく、家電などはご自身でリサイクルに出しておくなど、工事までに片付けておけるものがあれば費用を節約できます。また、『3〜4ヶ月以内に完了してくれればいいよ』と言ったように納期に余裕をもたせると、業者側のタイミングで工事を進めることができるので予算を抑えることができるかもしれません」
【工事費用を下げるコツ・交渉のポイント】
・残置物(家具、家電、生活用品など)を事前に処分しておく
・相見積もりを取って適正価格を把握する
・見積もりの内訳を確認し不明点があれば質問する
・工期に余裕を持たせる(業者の都合に合わせられる納期にする)
解体のプロが経験した、本当にあったトラブルエピソード

数多くの解体現場を手がけてきた塩田代表が、豊富な経験の中でも、特に印象深かったという特殊なトラブル事例をご紹介します。
①知人との口約束でトラブルに。一度も人が住んでいない家を解体
塩田代表が経験したなかで、最も印象に残っているのが、一度も住んでいない新しい家を解体したケース。
「知人の工務店にリフォームを依頼したお客様が、「知り合いだから」という理由で相見積もりも取らず、契約書も交わさないまま、口頭での打ち合わせだけで工事を開始されたそうです。しかし、いざ家が完成すると、窓の開閉に問題がある、部屋の広さや間取りや高さが希望とは違う、トイレや台所の使い勝手が悪いなど、依頼主のイメージとは大きく異なる仕上がりでした」
契約書を交わしておらず、打ち合わせも口頭で済ませていたため、双方の認識に齟齬が生じてしまったことが原因で起きたトラブルです。お金も支払い済みで、やり直しを求めても話し合いが進まず、裁判にまで発展したものの工事は完了せず、足場を組み立たまま4〜5年経過。近隣からも不安の声が上がり、自治体からも事故の恐れがあると指導が入りました。
このままの状態が続き、万が一事故が起きたらさらに大変なことになる……。裁判所からも和解を勧められ、危険防止のため弊社に解体工事の依頼が来ました。
「数千万円のリフォーム費用に解体費用、裁判費用もかかって、友人関係や近隣住民との関係も悪化。建物を解体するときのお客様の様子は本当に辛そうでしたし、私たちもとても心を痛めたことを覚えています。知人であっても、むしろ知人だからこそ、契約書をしっかり交わし、仕様を具体的に文書化することが大切です。安くしてくれるからといって任せきりにせず、相見積もりを取って適正価格を把握し、納得の上で工事を依頼することが重要だと改めて感じた経験でした」
②解体途中で業者が倒産
ほかにも、別の業者が倒産して工事が途中で止まってしまった現場を引き継いだこともあります。これは、お客様にもどうにもできない深刻な事態です。
近隣への配慮やごみの分別、法律問題などさまざまな専門知識を必要とする解体工事ですが、先述のように安易に『儲かる』と思って解体業に参入した業者が、想像以上に経費がかかって赤字続きで倒産してしまったのです。
「廃材を分別せずにゴミ処理センター(廃棄物処分場)に持っていくと処分費用が高額になりますし、本来持ち込んではいけないものを混ぜて持ち込もうとする悪質な業者は出入り禁止になってしまうこともあります。私が経験した現場も、大量の廃材がバラバラに混ざった状態で放棄されていました。分別せずに解体工事を進め、高額な処分費用によって経営が赤字になったことが倒産の原因になったと推測できます」
当社では、基本的には、他の業者が行った工事を引き継いで行うことはお断りしています。なぜなら、たとえ途中から真摯に工事を対応したとしても、状況を知らない人からすると『あの業者は何ヶ月も現場を放置していた』『途中で中断した会社だ』などと誤解される可能性があるからです。
「本来なら、会社の評判や従業員、職人の評判を落としてまで工事を引き受けることはしません。でも、このときはお客様も相当困っておられましたし、お客様の責任で起きたことではありません。状況によってはやむを得ず、工事を引き継ぐことも過去にはありましたね」

長年住み続けた家や思い出の詰まった建物を解体するのは、多くの方にとって人生で一度あるかないかの大きな決断です。
きちんとした業者を選ぶためには、ときには会社に印象や担当者の人柄までも判断材料になります。
「物を買うとき、デザインや価格で選ぶこともあると思いますが、販売員の対応であったりお店の雰囲気で『ここで買いたい』『この店で買いたい』と思って決める場合もありますよね。解体工事も同じで、価格だけでなく、信頼できる人かどうか、きっちり工事をしてくれる会社かどうかという部分をしっかり見て、業者を決めていただくといいと思います。解体工事も、人と人との相性が大切ですからね」
インタビュアー:コマツマヨ